さらば、談話室 滝沢

『談話室 滝沢』という店がある。多分東京都内にしか展開していないが、一部ではかなり名の知れた喫茶店である。
公式サイト等もほとんど無く、情報らしい情報はほとんど出回っていないのだが、街中で不意に目に映る店構えはなかなかのインパクトだ。

まず、その看板がひたすら渋く、白地に黒の毛書体で書かれた「滝沢」の文字。そして、ショーケースに並べられたメニューには一切の金額表示が無い。更に、大概の店舗は地下に続く階段の奥にある為、ちょっと中を覗くといった軟弱な精神を根底から一刀両断。これぞ一見さんお断りスタイルの王道。
一般的に認知されているのは「全商品1,000円」「打ち合わせの定番」ということだけである。

では何故、この俗世間と没交渉な滝沢にスポットライトを当てるのかと言うと、どうやらこの3月末で全店舗が閉店してしまうらしいとの情報を聞き付けたから。ネットでたまたま拾った情報だが、質の維持が困難になったことが一番の理由らしい。
ここでいう質というのが、一体どういうものなのかは分からなかったが、笑い話のネタに度々登場していた滝沢に一度も行かず終いでは悔いが残る。ここはひとつ、有志を募って談話をしに行こうではないか!
・・・というのが今回の大まかな趣旨である。

談話室 滝沢 新宿東口店

さて、実際に行くとなると、正確に所在を把握出来ている店舗はあまり多くない。とりあえず、ネットで唯一情報を載せていた新宿東口店に行くことにする。
これは後で知ったことだが、実はこの店舗が第1号店で、店舗は全部で4つらしい。

まずは挨拶代わりに、ショーケースに値札が無いことを確認。地下に続く階段は既に抹茶色に染め上げられており、踊り場には燈篭が鎮座。この和テイストの押し付け具合こそが滝沢の醍醐味であり、入店前からの容赦無いプレッシャーに早くも喉が渇く。
この店舗は地下と2階に分かれており、地下320席、2階160席と書かれている。合計500席弱という膨大な席数も然ることながら、何故1階が無いのかが気になる。

店内

入店すると、既に言葉が出ない。
レジ前から下に広がる広大なフロアーは、やはり抹茶色の絨毯が敷き詰められ、320と謳われた席にも人がびっしり。客の年齢層は50代が中心だろうか。

ほとんど待たずに席へと案内される一行。席に向かう道すがら、不意に池を跨ぐ。鯉が泳いでいる。置かれた置石の上を進む。ここは竜宮城か何かだろうか?

席に座ると、我々の通されたテーブルより上に2階があった。ここは地下だ。
先程、地下と2階があると書いたが、実際には1階にあたる部分にも席があって、つまり地下に2階を作り出す為に、最も客を呼び込み易いはずの1階を潰していたのだ。これが滝沢イズムというものなのか…
トイレの案内が「池を渡って右」と書かれているのも、宇宙の広がりを感じさせずにはおかない不可思議ポイントである。

隣りの席を覗くと、中年の男性が3人、向き合って談話中。
1人が鞄から茶封筒を取り出し、向かいの男性に渡す。向かいの男性は財布から現ナマをテーブルに載せる。時間を追って、更に繰り出される現ナマ。最早「談話」などという生温い次元のやり取りではない。

メニューシステム

一通り周囲の状況を把握した頃、ウェイトレスが注文を取りに来た。噂によると、ここの女性従業員は全員未亡人なんだとか。眉唾な話ではあるが、絶対に違うとも言い切れない、そんな雰囲気もあるにはある。
ちなみにペーパータオルは他に無いほどフカフカの上質で、お冷にまでコースターが完備されていた。

事前に情報を手に入れていたので混乱は無かったのだが、噂に違わず全品1,000円スタート。何を頼んでも最低1,000円。ただ、実はこの1,000円という部分が全てではなく、この1,000円にはテーブル料と言うか、初期投資にあたるものが含まれている。
ケーキをセットにして頼むと1,100円。最初の1,000円さえ投資してしまえば、ケーキは100円ということになる。単品で注文するには高く付くが、セットを前提とするなら常識的な金額設定なのである。全員、抹茶ケーキとドリンクのセットで1,100円。


結局、何だかんだといつも通りの会話に花を咲かせて店を後に。会計で貰った謝恩券(200円引き)は、今でも財布の中で漂っている。

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