▲ いよいよ北海道登山 – アポイ岳 (810m)

何年か前にローカル線特集本を読んだら、実家の苫小牧からローカル線が出ていると書かれていた。苫小牧はローカルと言えばローカルであるものの、そこそこ人口の多いところでもあるし、さすがにローカル線が走るほどローカルだとは思っていなかったので少しショック。
苫小牧を始点として、襟裳岬手前の様似まで海岸線を3時間強の道程らしい。

その時はそれまでだったのだが、最近になってその路線を地図で追ってみたところ、小学校の頃にテニスの合宿があった静内へは、その路線に乗って行っていたようだった。
少し前まで関東圏のローカル線を回っていたこともあり、それなら今回の帰省で乗ってみようと思い、終点の様似駅周辺の情報を探っていたところ、駅から近いところにアポイ岳なるものがあると判明。

最初は実家の裏にある 樽前山 に登ろうと考えていたのだけど、今の時季はまだ雪が多く、山頂間近の登山口が使えないことから断念していたところだったので、正に渡りに船とばかりにアポイ岳に登れるか調査を開始。
いかにもアイヌ語っぽいこの山は、標高こそ810mと低いものの、特異な地質や地形が相まって高山植物の宝庫となっており、国の特別天然記念物および花の百名山に指定されている。
情報によると、花はGW頃から咲き始めるものもあるとのことなので、少しでも見ることが出来ればラッキーというものだ。

ビジターセンターに電話してみると、GWまでに雪が溶け切るか微妙とのことなので、念の為に軽アイゼンを荷物に加えて帰省した。

JR 日高本線 苫小牧 → 様似

当日の天候は快晴。朝8時に苫小牧発の電車に乗り、乗り換え無しで様似へ直行する。

小学生の頃に乗った時はもっとローカル線の雰囲気が色濃かった気がするけど、思ったより小綺麗な車両で快適な電車旅となった。

11時過ぎに様似駅。

駅前で少し待ってバスに乗り換え、10分程でアポイ岳山荘前に到着。
登山客を迎えるビジターセンターの他に、温泉施設、キャンプ場やゴーカートを備えた公園などが併設されているので、ローカル線に乗って辿り着いた山とは思えないぐらい整った登山口だった。

アポイ岳

12時、登山届に記帳して入山。
登山口には「熊出没注意」の看板が大きく掲げられている。
関東の山でもお馴染みのものだが、熊=ツキノワグマの関東と違い、北海道では熊=ヒグマであるからして、大きさも獰猛さもまるで違う。遭遇がそのまま死亡フラグに繋がる可能性も高いので、嫌でも身が引き締まる。

アポイ岳は天然記念物に指定され、更に王子製紙の保有林にもなっているだけあって、整備が行き届いており、案内板や熊除けの鐘などが随所に設置されている。道迷いの心配も全く無く、安心して登ることが出来る。
雨が降っていないのにぬかるんでいる箇所が多いのは、どうやら雪解け水のようだ。関東圏には無い樹木も色々あって、何気ない道でも目に楽しい。

大きなアップダウンも無く、1時間ほど緩々と歩いて5合目の休憩小屋に到着。
この時点の標高は400m弱と低いが、既に南側が海で拓けており、ここから上は早くも森林限界を迎えるため、どちらを向いても絶景だった。

馬の背

ここまでは緩やかで非常に歩き易い道だったのだが、休憩小屋を過ぎると様相が一変。
橄欖岩剥き出しの急斜面を30分ほど登って一気に標高を稼ぎ、馬の背と呼ばれる尾根に出る。身体的には今回の道程で一番シンドい箇所だが、絶景というニンジンが目の前に吊られているので、ヒーヒー言いながらも何とか登れてしまうのである。

馬の背からは天国のような尾根歩きが続く。スーパーマリオで蔦に登って雲の上に行ったかのようなご褒美っぷりで、とても1,000m以下の山とは思えない絶景が360度に広がっている。
道の両脇には高山植物を保護する為のロープが張られているので、これに沿って歩いて行けば道を誤る心配は無いだろう。

写真ではそこそこキツそうに見える箇所もあるけど、手を使わずにヒョイヒョイ登れるし、命の危険を感じるようなことは無い。ゴツゴツした岩場ではあるものの、大きな段差が無いので、小学生でも大丈夫そうだ。

山頂まであと20分というところで、遂に雪が出現。雨が降っていないのに登山道がぬかるんでいたことからも想像した通り、昨日今日の気温でかなり溶けて、雪に覆われているのは極一部。
傾斜はそこそこあるので、ちょっと気を抜くとスグに転倒しそうになるのだが、氷結している箇所は無いようなので、アイゼンは使わずに山頂に到達することが出来た。

アポイ岳 山頂

山頂はダケカンバという白樺に似た木 (同じカバノキ科カバノキ属) に囲まれており、5合目の休憩小屋を出て以降、ここだけが唯一視界の悪いポイントとなっている。
ただ、このダケカンバは森林限界以上では背が低くなり、今は葉も落ちているため、上空は抜けていて、鬱蒼としたイメージは無かった。

さすがに山頂は一面が雪で覆われ、簡単に腰を下ろせるような場所も無い。風も強くてそこそこ肌寒かったので、持参したおにぎりを食べて早々に下山を開始。

ピストンで下山

帰りはずっと、こんな感じの素晴らしい眺めの中を下っていく。
帰路は「幌満お花畑」という高山植物の群落地をトラバースする選択肢もあるのだが、雪が残る今時季は踏み跡もほとんど無く、当然ながら花も観ることが出来ない。今回は大人しく、登って来た道をそのまま折り返すことにした。

馬の背まで戻るとパトロールの方が居たので花について訊いてみると、例年ならもうそろそろ幾つかの花が咲き始めているのだが、今年は寒さが抜け切らない影響からか、開花が遅れているとのことだった。
花が観られなかったのは残念だけど、これだけの晴天に恵まれただけでも満足なので、花はまたいずれ訪れたときに楽しませてもらうとしよう。

アポイ岳山荘

下山後はビジターセンター近くの アポイ岳山荘 という温泉で汗を流す。山荘と言うものの、実際には宿泊も可能な温泉施設という感じである。
麓にあるので特に景色が良いというわけでもないが、綺麗でいい温泉だった。

徒歩で様似駅へ

ここからは18時過ぎのバスに乗って駅まで戻るスケジュールだったのだが、予定よりかなり早く下山していたため、バスが来るまで1時間半ほどあり、調べると駅まで徒歩で1時間とのことだったので、そのまま海岸線を歩くことにする。
暮れる夕日に相対するようにして、写真を撮りつつ駅に向かう。駅は襟裳岬とは逆方向なので、今回の行程で襟裳岬を拝むことは出来なかったけど、代わりにエンルムという岬に日が沈む景色を眺めることが出来た。

JR 日高本線 様似 → 苫小牧

18時を過ぎた海岸線は風もそれなりに強く、風呂上がりの身体には結構寒い。寒さも想定してダウンジャケットを携帯してきて正解だった。

1時間弱で駅に到着し、残りのおにぎりを頬張りつつ列車を待つ。30分ほどで18時半発の最終列車がやってきて、そそくさと乗り込む。幾らも経たない内に窓の外は夜の帳に覆われ、ほとんど何も見えなくなった。

帰りの列車ではほとんど寝ていたのだが、一度急停車した時に目が覚める。
アナウンスでは「鹿が線路内に立ち入ったため…」と説明していた。いかにもローカル線らしいアクシデントで微笑ましい。


それ以外では特に何事もなく、予定通り21時半に苫小牧駅に帰着。実家の裏山以外、北海道の山に登ったことが無かったので少し緊張もあったけど、これ以上無いぐらいの晴天に恵まれ、とても素晴らしい山行となった。

イヤイライケレ アポイ! (アイヌ語で「ありがとう、アポイ」の意)

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