▲ 五里霧中の春山行 – 明神ヶ岳・金時山 (1,212m)

以前に陣馬山・大山雲取山富士山尾瀬 を一緒に歩いた友人から、今年から本格的にトレッキングを始めたいとの申し出があった。
今までは単発イベントとしての参加に留まっていたが、今回は装備もしっかり整えて、かなり本腰を入れて登りに行こうと考えている様子なので、これ幸いと春1本目の山行を企画。

友人からは「それなりにハードなプラン」という要望を受けている。
実は先々週、最初からゴローの靴をオーダーするという冒険 (暴挙?) に打って出た友人だが、春先は大学生の注文が山のように入る為、出来上がって来るのは5月末。それまでは靴に関して若干制約がある状態のため、残雪が懸念される山は選べない。
この週は異様に暖かく、山の雪もかなりの勢いで溶け始めてはいるようなのだが、ヤマレコなどの情報を見る限り、1,000m後半になるとちょっと危ない感じらしい。当初は塔ノ岳辺りが良いと思っていたが、残雪を考慮すると微妙なのでプランを練り直す。

雪を避ける、靴に多少の不安、それなりの歯応えという3点を踏まえ、今回は箱根の明神ヶ岳と金時山をプチ縦走するコースに決めた。足場の悪い箇所が無く、金時山までにエスケープルートが幾つかあるのが決め手。

箱根登山鉄道 強羅駅

前日までの予報では、晴れはしないものの降水確率0%の曇りとのことで、多少の雲間を期待しつつ、下北沢の小田急線ホームに6時集合。小田原で箱根登山鉄道に乗り換え、箱根湯本で更に強羅行に乗り換えて8時半に強羅着。
箱根湯本の時点で雨は降らないまでも、地面がかなり濡れていて嫌な雰囲気だったのだが、強羅に到着するといよいよ霧が酷く立ち込めて、視界不良も甚だしい状態になっていた。曇りというか、これはもう降っていないだけで、ほとんど雨と大差無いような…

降ってこないことだけを祈りつつ、まずは別荘地を縫って坂を下る。ここから金時山までは、5年前に登った時 と同じコースを辿る予定。その時もほとんど終始曇天だったけど、辛うじて雨には降られなかった。

宮城野エリアから入山

下り切った宮城野エリアの住宅地の路地を緩々と上り、別荘地の裏道のような登山道がスタート。このコースはあまり日当たりが良くないので、ここ数日の雨ですっかりぬかるんでいて歩きづらい。
途中、10人ぐらいの同年代っぽい男女混合グループを追い抜く形になったが、どうやらそのグループは途中で引き返すことにしたらしい。確かにこの日は天候が回復するとは期待出来ず、箱根なら温泉や観光にスイッチ可能なので、男女混合なら引き返すというのも悪くない手かもしれない。
一方こちらは野郎2人ということもあり、こんなところで引き返すという選択は最初から無い。

1時間ほどでそこそこ見晴らしの良い、箱根笹の茂る鞍部に出るのだが、残念ながら展望は皆無。遠くの山々どころか、隣の山も箱根の街並みも何一つ見えない。うーむ、これは困った。
この頃から天候もいよいよ怪しくなり始め、霧と霧雨を行ったり来たりする状態に。ここまで来たらブツクサ言っても始まらないので、諦めて山頂を目指す。

明神ヶ岳 山頂

鞍部から1時間弱で明神ヶ岳山頂に到着。
山頂手前はダイナミックな景色が点在するビューポイントのはずだが、当然のように展望はゼロ。展望どころか、視界不良と言っても差支えないぐらいに霧が濃い。この辺りの景色とも相まって、何だかあの世にでも迷い込んだかのような現実味の無さである。
幸い、到着時点では雨が降っていなかったので、丁度空いていたベンチで昼食にする。ここ数日は桜が早咲きしそうなぐらい暖かかったのに、山頂はなかなかに寒い。

明神ヶ岳 → 矢倉沢峠 → 金時山

昼食を終えて出発の準備を始めた頃に、ポツポツと雨が降り始めた。
我々は丁度食べ終えていたので良かったが、入れ替わりに到着したグループも何組か居て、言葉少なに冷え切ったお弁当を食べていた。
明神ヶ岳山頂から金時山までの区間は、芦ノ湖方面の大展望が広がるボーナスステージのはずだが、もう泣くのを通り越して笑うしかないぐらいに何も見えず、連れて来た自分としても言うことが無い。道が安定して歩き易いことだけが、唯一の救いという有様だった。

1時間半掛けて矢倉沢峠まで下り、ここからどうするか一応友人と相談。
不安だった靴の方は何とか大丈夫なようで、「どうせここまで来たなら最後まで」とのことなので、もう展望は度外視で金時山まで一気に踏破することに決めた。

ここから山頂までは若干ゴツゴツとした急坂になるが、長くはないので勢いだけで登ってしまえる。
…のだが、実はこの区間がこの日一番の泥濘地帯と化しており、登山靴の我々はまだしも、スニーカーで来た人達が悲鳴を上げながら上ったり下ったり滑ったりしていた。そんな中、何と靴底が真っ平のコンバースで下って来る人まで居て、あれはもう別ジャンルのアスレチック競技なんじゃないかな…

金時山 山頂

15時少し前に金時山山頂に到着。晴れていれば富士山が見えることもある展望の山だが、もう何も言うまい。
到着したタイミングで2つある茶屋の片方も店を閉め、もう1軒に辛うじて2~3人居るぐらい。そんなに長居する気も無かったので、我々が外のベンチでお湯を沸かし、コーヒーで暖を取る。

夕日の滝

30分程で山頂を出発。下りは 金時山単体で登った 際に使った、地蔵堂バス停に下りるルート。最初は金属製の階段を使ってガシガシと岩場を下り、丸鉢山から夕日の滝に向かって北東に進む。

1時間も下ると苔生した沢に当たり、何度か沢を跨ぎながら 夕日の滝 を目指す。
それほど特徴的なコースではないが、この日の天候だと展望コースの楽しみがほとんど無い分、こういうアスレチック気味なコースの方がトレッキングしている手応えがあって楽しかった。

あんまり有名ではないものの、山から下りるついでとしては意外にご褒美感のある夕日の滝。
一応、金太郎が熊と相撲の稽古をした場所と言われているが、そういう場所は幾つもあるようなので、真偽のほどは受け取る側の心持ち次第。まぁ金太郎云々が眉唾であっても普通に良い場所なので、金時山からの帰りにはオススメしたい。

夕日の滝から15分で地蔵堂バス停に到着。バス停の横に茶屋があって、前回はおやきを食べたのだが、この日は閉まっていて食べられず。うーん、今回は最後まで肩すかしな山行だった…
そう言えば、バス停の手前に猪の毛皮が吊るされていて、前回は初見でテンションが上がったのだが、数年経った今も同じものが吊るされていた。多分、雰囲気を出すための演出なのだろう。ガックシ。

小田原で小田原丼

17時半の終バスに乗り、大雄山線で小田原まで戻る。折角なので小田原で夕飯にしようと調べてみたところ、小田原丼 なるものが引っ掛かった。
「菜こんたん」というお店の情報を見る限り、鯵のフリットが乗った丼らしい。洒落た造りで人気店のようだが、タイミング良くカウンターが空いていたので待たずに入れた。

後に入浴が控えているので、ひとまずアルコールは控えて「小田原・鯵のサクサク丼」を注文。ご飯は少なめだが、衣に生ビールを使っているという鯵のフリットが豪快に乗っている。サクサクと非常に軽く、これはなかなか箸が進む。
店員さんに小田原丼のパンフレットを見せてもらって気付いたのだが、どうやら小田原丼には色々な種類がある、というか、具体的にコレという決まった形は無いらしい。

  • 小田原の海と大地で育まれた食材を一つ以上用いること
  • 伝統工芸品・小田原漆器の器に盛って饗すること
  • お客様に満足していただき、小田原がもっと好きになるように、おもてなしすること

上記3点を満たしていることが認定条件らしく、実質1・2番目がポイントのようだ。パンフレットを見ると、確かに地魚や蒲鉾といった特産品が使われている。
ただし、「足柄牛」や「箱根山麓豚」といった一般的な認知度は今一つの食材も多く、どちらかと言うと、観光課の戦略と言った面が色濃く見えている。そう言えば、年始に 諏訪を訪れた 際にも 信州みそ天丼 が同じようなことをやっていたので、どうやらここ10年ぐらいのB級グルメブームに近しいPR活動の形態なのだろう。

山行を終えて腹ペコの男2人が軽めの丼1杯で満たされるはずも無く、パンフレットで駅近でハシゴ出来る物件を探し、毛色の違う海鮮丼系の 魚河岸でん をチョイス。
こちらは結構前から手を変え品を変えでアグレッシブにやっているらしく、何と5代目まで小田原丼が存在している。(注文出来るのは2~5代目)
ここまで来ると、単なる海鮮丼のバリエーションなのでは?という思いが胸に去来する。

同じものを頼んでもつまらないので、友人は「5代目 湘南しらすの小田原三色丼」、自分は「3代目 湘南しらすと地魚の宝石丼」を注文。食べた感想は、まぁ普通かな。今時、同じ値段でもっと大盤振舞なものは幾らでもあるので、特にお値打ちな感じはしなかった。
ご当地モノとして比較するなら、個人的には先に食べた「小田原・鯵のサクサク丼」に軍配。


最後は鶴巻温泉駅で途中下車して、弘法の里湯 に滑り込んで汗を洗い流す。やはり最後のひとっ風呂があるのと無いのとでは、疲れの持ち越し具合に雲泥の差がある。
鶴巻温泉駅はほとんど何も無い小ざっぱりとした駅前だが、それが僅かながら旅の風情を与えてくれるので、ここ数年は丹沢・箱根方面の帰りによく使わせてもらっている。
最後の最後に駅前のコンビニで缶ビールを買って、電車が来るまでの僅かな時間で乾杯。

これまでもそこそこの回数を登って来た中で、天候に恵まれない山行も少なからず経験しているが、雨に降られるような日でも、1日の内で僅かにでも陽が差したり、展望を得られる瞬間があった。
しかし、最初から最後まで悪天候に終始したというのは、実は今回が初めてだったりする。その貴重 (?) な1回目で実質的なデビューを引き当ててしまった友人には、申し訳無いの一言に尽きる。

そう言えば、金時山を絡めた過去の2回も、正直天候は微妙だった。
矢倉沢峠で擦れ違ったご老人も「富士山が見えるのは10回に1回」と仰っていたし、立地上、あまり天候には恵まれない山なのかもしれない…と自分を慰める春の山行だった。
友人にはこれから、登り続ける限りは今日よりずっと素晴らしい経験が待っているだろう。

DATA

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